放射線の強さを表すときに,Sv/h の単位を使用しますが,この単位で表す数字にも,
実は複数の種類があります.
単位は同じですが,表している物が違うため,単純に比較できない場合があります.
例えば,SPEEDIの結果が以下で公開されています.
文部科学省 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による計算結果
この資料に,「一歳児甲状腺の内部被ばく等価線量」のシミュレーションがあります.
数値を見ると,3/12~4/24で,10000mSv,5000mSv,1000mSv と大変高い数値のエリアが確認できます.
この線量を見て,例えばWikipediaの被曝欄の「3000~5000mSvで50%の人が死亡する。」との記載とあわせて考えて,
これは大変なことだ!と考えてしまうかもしれません.
一般的に被爆の影響を記載しているときは「実効線量」という単位で,体全体で平均化した被曝量になります.
Wikipediaなどでの被曝による影響は,この実効線量の単位で記載されています.
一方,SPEEDIの結果の等価線量というのは,体の場所毎の被曝量になります.
ヨウ素は甲状腺に溜まり,主に甲状腺が被曝します.
仮にそれ以外の場所の被曝量がなかったとすると,甲状腺の重み付けが0.05なので,
実行線量=甲状腺等価線量10000mSv×0.05=500mSv
となります.
体全体で浴びるのと,甲状腺だけに浴びるのでは影響も違うと思われますが,
不均衡被曝の実効線量の評価は,影響が小さいということで法律で決められていません.
ですので,日本の法律的には,全身の平均でのみ評価をすることになります.
そしてもう1つ,50%死亡などと記載されているのは,短時間に大量に浴びた場合の確定的影響に関する記載です.
1ヶ月以上かけて放射線を浴びた場合とは単純に比較できません.
放射線による影響を考えるときは,確率的影響と確定的影響の2つに分けて考えます.
測定の単位は大きく3つに分類できます.
左の列が放射線の影響を見るための単位です.
その影響を調べるために使われる測定用の単位が中央の列のものです.
そして,物理的な放射線の量などを表すのが右の列です.
放射線測定器を使って調べる場合は,右の列で表される物を,真ん中の列の単位で測定を行い,そこから左の列の実効線量・等価線量を求めます.
放射線防護のための単位 | 測定のための単位 | 物理的な単位 |
---|---|---|
(内部被曝&外部被曝) ・実効線量(Sv) ・等価線量(Sv) |
(外部被曝) ・1cm線量当量(Sv) ・3mm線量当量(Sv) ・70μm線量当量(Sv) (内部被曝) 放射性物質ごとにBqから係数で換算 |
・空気カーマ・吸収線量(Gy) ・照射線量(R・C/kg) ・フルエンス(1/cm^2) ・ベクレル(Bq) など… |
等価線量は体の場所ごとの被曝量を表します.
そして,それらに組織毎の係数をかけて合計した物が実効線量になります.
法律では,確率的影響に対する限度は実効線量,確定的影響に対する限度は等価線量で定めています.
ですので,例えば将来○%で癌になる,というような評価には実効線量を使います.
放射線業務従事者の限度は以下のように定められています.
区分 | 実効線量限度 | 等価線量限度 |
---|---|---|
下記以外のもの | 5年間100mSv 年50mSv |
目の水晶体 年150mSv 皮膚 年500mSv |
女子(妊娠不能・妊娠の意志がないものを除く) | 3ヶ月間5mSv | |
妊娠を申告した女子 | 申し出から出産までの間 1mSv | 左記の期間 腹部表面 2mSv |
緊急作業時(妊娠中の女子を除く) | 100mSv | 目の水晶体 年300mSv 皮膚 年1000mSv |
組織・臓器 | 荷重係数 |
---|---|
骨髄(赤色) 結腸 肺 胃 乳房 |
それぞれ 0.12 |
生殖腺 | 0.08 |
膀胱 食道 肝臓 甲状腺 |
それぞれ 0.04 |
骨表面 脳 唾液腺 皮膚 |
それぞれ 0.01 |
残りの組織 | 0.12 |
等価線量は,放射線測定器で1cm線量当量や70μm線量当量で測定します.
線量当量には,放射線のはかり方と,放射線を人体のどのくらいの深さの地点で見るかによって,
複数の種類があります.
深さ | 周辺線量当量 | 方向性線量当量 | 個人線量当量 |
---|---|---|---|
1cm線量当量 | H*(10) | H'(10,α) | Hp(10) |
3mm線量当量 | H*(3) | H'(3,α) | Hp(3) |
70μm線量当量 | H*(0.07) | H'(0.07,α) | Hp(0.07) |
1cm線量当量・70μm線量当量と,測定する放射線の種類との関係は次のようになります.
線量当量 | β線 | γ線(X線) | 中性子線 |
---|---|---|---|
1cm線量当量 | - | ○ | ○ |
70μm線量当量 | ○ | ○ | - |
多くのエネルギー補償タイプの放射線測定器は1cm周辺線量当量(H*(10))を測定します.
マニュアルなどをみると,H*(10) などの表記があると思います.
個人線量計なら,Hp(10) のような表記になっていると思います.
H*(10) なら体から離して空気中で計るのが正しい測定方法で,Hp(10) なら体に身につけて計るのが正しい測定方法になります.
H*(10)とHp(10)は違う状況で校正されているので,Hp(10)を計る個人線量計で空間線量を測定すると過小評価になります.
高線量向けの機種では,Hp(0.07) も一緒に計れる物があります.
線量当量ではなく,照射線量(Gy)を測定する物もあります.
安価な機種ではどの線量当量を測定するのか記載されていないものが多くあります.
そういった機種では,表示される数値は1cm線量当量とは大きくずれる可能性があるので,
表示された数値の絶対値をそのまま使って,放射線の影響を考えると判断を誤る可能性があります.
数値の大小(相対的な数値)を使って判断をするようにするのが良いと思います.