ガイガーカウンター GAMMA-SCOUT を,
ワンダーランドショップさんから,無償でお借りすることが出来ましたので,
使用感などをまとめてみました.
GAMMA-SCOUT はガイガーミュラー管を使用した放射線測定器(ガイガーカウンター)です.
特徴としては,
お借りした GAMMA-SCOUT のパッケージと,その内容物です.
GAMMA-SCOUT の上に写っているのは,PCとの接続ケーブルです.
単3電池が入っていますが,バッテリー交換はサポートに依頼して交換するとあり,
自分でやらないでくださいとマニュアルに書いてあります.
ワンダーランドショップさんに確認したところ,販売した方がおまけに入れてくれたようです,とのこと.(^^;
PC接続や音を出すと電力消費が大きくなりますが,そうでなければ10年持つので,
通常電池の交換は不要のようです.
本体は,このような感じです.
上に測定する放射線をαβγ,βγ,γと切り替えるためのレバーがあります.
ボタンは10個あり,放射能マークを押すと線量率表示画面になります.
DSiより一回り大きいくらいのサイズです.
高さはありますが,細身なので持ちやすい形状です.
手持ちの PA-1000 Radi と PM1703MA と並べてみました.
幅・厚さはRadiと同じくらいで,少し縦に長い感じです.
GAMMA-SCOUT は本体上部のレバーを操作することで,GM管に入る放射線を切り替えることができます.
写真左のように,中央にレバーをあわせると,γ線のみが測定できます.
このときは,銀色のフィルタが見えます.
写真右のように,右にレバーをあわせると(写真では逆さなので左),β線とγ線が測定できます.
アルミニウムホイルでα線のみがカットされるようです.
次のように,左にレバーをあわせると(写真では逆さなので右),α線・β線・γ線全てが測定できます.
このときはGM管が見えます.
α線を検出するGM管は薄い膜でカバーされているので,触ったりしないように注意が必要です.
GAMMA-SCOUTはいくつかの測定モードが有り,本体のボタンで切り替えます.
1ボタンに1~2機能が割り当てられているので,目的の機能にはかなり素早くアクセスできます.
また,画面下には線量率のバーグラフが常に表示されます.
モードを切り替えている間も,おおよその線量率をバーグラフで確認できます.
GAMMA-SCOUT には,このほかにオンラインモデルも有り,そのモデルではPCと接続し,
PC側でリアルタイムに線量率を表示できるようです.
今回お借りしたのはアラームモデルで,この機能は無いモデルです.
GAMMA-SCOUT は,タイマーを使って一定時間のカウント数を測ることができます.
線量率のサンプリング時間は不明(おそらく60~90秒くらい)ですが,この機能を使えば好きな時間を設定して測定できます.
カウント数から線量率へは,1分間あたりのカウント数を90.1cpm/μSv/hで割り算すれば換算できます.
毎日同じ場所で1回測る,というような定点観測をする場合は,1時間など,長い時間を掛けて測定すれば,かなり正確に数値を測定できるので,
時系列で変化を追う目的にも利用しやすいと思います.
どのくらいの時間を掛ければ誤差がどのくらいになるかは,こちらでシミュレーションできます.
GAMMA-SCOUT の感度は「90.1cpm/μSv/h」なので,その数値を入れて,放射線量と計測時間を入力して下さい.
参考:測定値のぶれのシミュレーションツール
感度が90.1cpm/μSv/hと低めであるため,低線量で使う場合はかなり数値がふらついてしまいます.
以下のグラフは2時間ほどの間,1分毎に線量率を読み取った場合のふらつき具合です.
低線量で測定する場合は,複数回,値を読み取り平均するか,
タイマー機能を使い,5~15分くらいのカウント数を測定し,そこから線量率を計算で求める方が良いと思います.
タイマー機能を使う場合,例えば10分測定し,120カウントであれば,1分間あたり20カウントになります.
線量率は 20cpm÷90.1cpm/μSv/h=0.22μSv/h と計算できます.
線量率のばらつき具合から,サンプリング時間を逆算すると約80秒くらいになりました.
0.10μSv/hくらいで線量率が安定している場合は,過去80秒くらいの測定結果を表示しているようです.
線量率が変化すれば,もっと短時間で線量率を表示しますので,
線量率が変化したときは統計をリセットするようなロジックになっているようです.
鉛ブロックで囲って自己ノイズを測定したところ,0.07~0.09μSv/hほどありました.
そのためか,線量率も少し高めに表示される印象です.
参考:ガイガーカウンターの自己ノイズ 第3回 (2011/10/24)
他の測定器との線量率を比較してみました.
以下に測定器毎の差についてまとめていますので,あわせてご覧下さい.
参考:線量率の変動比較・第8回 (2012/02/24)
複数の密封線源を近づけたときの反応の様子を撮影しました.
以下の順序で試しています.
GAMMA-SCOUT はαβγ,βγ,γと測定対象を切り替えられますので,
それぞれのモードで測定し,差を計算することで,α線・β線・γ線の量を知ることができます.
α線を出すような物はなかったので,βγとγで測定し,β線の量を計算してみました.
測定器はパルス測定モードを10分のタイマーにして,βγとγでそれぞれ測定を行いました.
この2回の測定の差を見てβ線があるか判断するわけですが,カウント数に差があったからといって,
そこにβ線の汚染があると判断できるとは限りません.
放射線はランダムに出るため,実際には汚染がないにもかかわらず,たまたまばらついたせいで
β線があるように見える可能性もあります.
そこで,統計的な計算を行い,判定を行うツールを使います.
以下のリンク先に使い方の説明を記載していますので,参考にしてください.
参考:放射線測定器(ガイガーカウンター)のカウント数の有意差計算ツールで差を検証する
使い方としては,単純に測定時間と,そのカウント数を記入し,計算させるだけです.
このとき,「危険度0.27%で差は有意?」に「有意差あり」と表示されれば,「汚染あり」と判断して良いと言えます.
また,p値というのが,汚染ありと判定したとしたときに,本当は汚染が無いのに,汚染ありと誤判定してしまう確率を表しています.
これが0%なら,確実に汚染ありと言えることになりますし,5%なら,5%の確率で本当は汚染がないのに汚染ありと判断するということになります.
以下の測定結果では,p値を記載しています.
これが 0.27% 以下であれば,一般的には「汚染あり」と判断できると言うことになります.
もし 0.27% 以上で,かつ小さめの数値である場合は,更に測定を行って,汚染があるかどうか調べることができます.
その場合は,ツールには合計の測定時間と,合計のカウント数を記入します.
例えば,10分測って,対象物なしで123,対象物あり155だったとします.
この場合は,p値は5.5%で,危険度5%でも有意差が無いという判断になります.
(ツールでの計算結果)
更に20分ずつ測定を重ねて,今度は対象物なしが251,対象物ありが313だったとします.
先ほどと合計すると,測定時間はそれぞれ30分,カウント数は対象物なしが 123 + 251 = 374,対象物ありが 155 + 313 = 468 となります.
同様にツールで計算すると,p値は0.12%となり,汚染ありと判断できます.
(ツールでの計算結果)
測定場所 | γ線カウント数(A) | β+γ線カウント数(B) | 差のp値(B-A) | コメント |
---|---|---|---|---|
鉛ブロックの上 |
107 | 118 | 46.3% ツールでの判定結果 |
β線が明らかにない状態でゼロになるか,一応鉛ブロックの上で測定してみました. p値も非常に高く,差があると言えない状態です. 若干β+γ線の方が数値が高いですが,たまたまの誤差の範囲と判断できます. |
昆布 |
124 | 123 | 94.9% ツールでの判定結果 |
乾燥昆布を測定してみました. 昆布にはカリウムが含まれているため,そのβ線を検出できるかな?と思ったのですが未検出でした. 他の測定器では測れたこともあったので,もう少し測定器に近づけたり,量を多くすれば差が出たかもしれません. |
やさしお |
123 | 152 | 8.0% ツールでの判定結果 |
やさしおを測定してみました. やさしおは,塩分の半分をカリウムに置き換えた塩です. カリウムには天然の放射性カリウムが含まれるので,そのβ線を検出できるかな・・・と試したところ, p値が8.0%とありと検出できそうな雰囲気が見られます. もう少し時間をかけて測定してみると,β線ありと判断できる可能性がありそうです. |
2011年3月に使っていた吸気口フィルタ |
137 | 148 | 51.5% ツールでの判定結果 |
花粉がキャッチできるフィルタを部屋の吸気口につけているのですが, 3月頃に使っていたフィルタを交換後保存しておいたものを測定しました. こちらはβ線を検出できませんでした. |
ストロンチウム(Sr-90)線源 |
204 | 2258 | 0.00000000000000000000% ツールでの判定結果 |
β線のみを出す線源です. γ線が増えたのは,制動放射(β線が他の物に当たったときにX線(=γ線と一緒)がでること)のせいだと思います. こちらは,はっきりとβ線が検出されています. |
セシウム(Cs-137)線源 |
340 | 452 | 0.0069% ツールでの判定結果 |
セシウムなのでγ線も増えますが,β線も出します. こちらもはっきりとβ線を検出できたと言えます. |
トリウム入りマントル |
211 | 547 | 0.00000000000000000000% ツールでの判定結果 |
最近はトリウム入りではないマントルも多いようですが,これはトリウムが入っている物です. はっきりとβ線を検出できました. |
PCと接続することで,測定器で記録したデータを読み出すことができます.
付属ソフトウェアですが,同梱されていた CD-ROM では上手く動かず,
ワンダーランドショップさんから別バージョンのソフトウェアを送って頂きました.
新しいソフトウェアで,Windows7 64bit 環境と,Windows Vista 32bit 環境で動作を確認できました.
測定器の線量率は一定間隔で記録されています.
これをPCにダウンロードすることが出来ます.
ダウンロード後は,測定器側のメモリをクリアできます.
測定器のメモリの残りが少なくなると,自動的に記録間隔が1週間になります.
短い時間間隔で記録したい場合は,記録前にPCにログをダウンロードして,
測定器側のメモリをクリアしておく必要があります.
履歴は付属ソフトでグラフ表示できます.
線量率・カウント数・積算線量の3種類を,2Dまたは3Dのグラフで確認できます.
測定器から読み出した生データは,自動的に保存されます.
更に,集計した結果をCSV形式・テキスト形式で保存することができます.
テキスト形式の場合は以下のようになります.
----------------------------------------------------------------------------- Gamma-Scout -- Calculation of Raw-Data -- ----------------------------------------------------------------------------- "File : GAMMA_2012_02_20_22-28-54.DAT" ----------------------------------------------------------------------------- The ID of your Gamma-Scout is : 000000 ----------------------------------------------------------------------------- Measurements with overflow of the counter-tube (max.1000 Microsievert per hour) are signed with '*'. Measurements where the choosen interval was not terminated are signed with 'x'. [cps] means 'counts per second' (recognized impulses per second) Rate in [cps] means 'counts per second' This value represents the measured pulses per second. Dose in [microSievert/h] means 'microSievert per hour'. ----------------------------------------------------------------------------- PROCESSED DATA : ----------------------------------------------------------------------------- Nr. Range from to Counts Rate Dose ----------------------------------------------------------------------------- x1 Hour 09:57 19.04.10 09:58 19.04.10 0000000011 0.003 0.002 x 2 Week 09:58 19.04.10 09:58 26.04.10 0000248960 0.412 0.268 3 Week 09:58 26.04.10 09:58 03.05.10 0000290048 0.480 0.312 4 Week 09:58 03.05.10 09:58 10.05.10 0000294400 0.487 0.317 5 Week 09:58 10.05.10 09:58 17.05.10 0000282368 0.467 0.304 6 Week 09:58 17.05.10 09:58 24.05.10 0000432640 0.715 0.466 7 Week 09:58 24.05.10 09:58 31.05.10 0000152192 0.252 0.164 8 Week 09:58 31.05.10 09:58 07.06.10 0000150656 0.249 0.162 9 Week 09:58 07.06.10 09:58 14.06.10 0000151168 0.250 0.163 10 Week 09:58 14.06.10 09:58 21.06.10 0000424960 0.703 0.458 (略) -----------------------------------------------------------------------------
CSV形式の場合は以下のようになります.
Notes : 1.Rate = average counts per second over interval 2.Type (interval) 0=week 1=day 2=hour 3=10min 4=min 3.GM tube overflow flag (*) or interval was interrupted(+) Dose Number,From,To,Counts,Rate,Type,Overflow Flag(*) or Interruption-Flag(+),Dose, 1,2010/04/19 9:57:00,2010/04/19 9:58:00,11,0.00305555551312864,2,x,0.00199059001170099, 2,2010/04/19 9:58:00,2010/04/26 9:58:00,248960,0.411640197038651,0, ,0.268169522285461, 3,2010/04/26 9:58:00,2010/05/03 9:58:00,290048,0.479576706886292,0, ,0.312427848577499,
α線・β線・γ線の測定を簡単な切り替え操作で測れる数少ない機種の1つです.
特にα線まで測れる機種は少ないですから,その点を重視する場合はこちらの機種が選択しになると思います.
また,測定器本体は素直な作りで,タイマー機能やパルス数自体の表示など機能も十分有り,使い勝手は良いと思います.
バッテリー交換が出来ませんが,測定にのみ使えばバッテリー交換が必要無いほど持つのもメリットです.
その間,一定時間ごとにログを記録することも出来ます.
本体機能は大変良いのですが,一般的な使い方であるγ線の測定において,ちょっと感度が低いのが難点です.
タイマー機能があるので,上手く使うことで感度が低い部分をカバーできるとはいえ,ここが唯一残念なところだと思います.