Tube Simulator
Tube Simulatorは、真空管のライン段とパワーアンプ回路による、信号に応じて変化する倍音、圧縮、電源サグを加えます。Lineはドライバー段だけ、Push-Pull PowerはEL84、EL34、6L6GC、KT88のプッシュプル回路、SE Triodeは300Bと2A3のシングルエンド回路です。どちらのパワー回路も出力トランスのコアまでモデル化しており、その磁気飽和とヒステリシスが、大音量の低域で歪みを加えます。アンプから見たスピーカーの電気負荷を扱いますが、スピーカーキャビネットやマイクの音は加えません。
音質調整ガイド
控えめな色付けには、Preグループで末尾が@0.01%または@0.1%のプリセットを選びます。倍音や圧縮を分かりやすくするには、末尾が@1%または@2%のプリセットを選びます。
ライン段の音にはPre、出力段だけにはPower、アンプ全体にはPre+Powerを使います。
穏やかなプッシュプルの音はEL84 Distributed 10 W @2%から始めます。EL84 Pentode 10 W @2%と比較すると、より引き締まった直接的な変化を確認できます。
偶数次倍音が強く、柔らかいシングルエンドの応答には300B SE @2%または2A3 SE @2%を試します。
圧縮や歪みが強すぎる場合はInput Volumeを下げ、その後Output Trimで再生音量をそろえます。
Negative Feedbackを下げると緩く倍音の多い応答、上げると引き締まった応答になります。SE Triodeは3dBから始め、0〜6dB付近で調整します。
効果を薄く加えるにはWet/Dry Mixを下げます。
パネルの構成
各コントロールは5つのタブに分かれています。
Input - Input Volume、Input Reference、Source Z
Driver - Driver Type、Bias、Plate、Supply、Negative Feedback
Power - Output Circuit、プッシュプル用のPower Tubes、Output B+、Cathode Resistor、シングルエンド用のSE Triode、SE B+、SE Cathode Resistor
Transformer - Screen Tap、Push-Pull Primary、SE Primary、Assumed Speaker Load、Actual Speaker Load
Output - Output Trim、Output Safety Trim、Auto Gain Reduction、Wet/Dry Mix
PowerとTransformerタブには、選択したOutput Circuitで使うコントロールだけが表示されます。
プリセットの選び方
エフェクトヘッダーの エフェクトプリセット ボタンをクリックすると、プリセットダイアログが開きます。システムプリセットのPre、Power、Pre+Powerグループから選ぶと、すぐに適用されます。現在の設定に一致するプリセットはハイライトされ、一致するものがなければどのプリセットもハイライトされません。初期設定は EL84 Pentode @2% に一致します。Output Safety Trim と Auto Gain Reduction は照合に使われないため、変更してもハイライトは外れません。
プリセット名の末尾は効果の強さの目安です。@0.01%は非常に控えめ、@0.1%は軽い色付け、@1%や@2%は倍音と圧縮が分かりやすい設定です。プリセット間を比較するときは、音量差による印象の違いを避けるためOutput Trimで聴感上の音量をそろえてください。
パラメータ
Input Volume (-96〜0dB) - 選択した信号経路を駆動するレベルを下げる
0dBが全開。値を下げるほど内部の駆動電圧が減り、ヘッドルームが広がる
Driver Type (12AX7、12AT7、12AU7、Bypass) - 2段ドライバーの真空管を選ぶか、そのドライバーを信号経路から外す
電圧利得は12AX7が最も高く、12AT7が中間、12AU7が最も低くてヘッドルームが広い
Push-Pull Powerでは固定12AX7の位相反転段を、SE Triodeでは選択した出力三極管を直接駆動する
BypassはPowerプリセット用。Push-Pull Powerでは位相反転段を残し、SE Triodeでは共通ドライバーを通さず出力管へ入力する。LineでBypassを選ぶと遅延補正された素通しとなり、Negative Feedbackは作用しない
Bias (-50〜+50%) - 2段のドライバーのカソードバイアス動作点を移動
上げるとモデル上のカソード抵抗が小さくなり、電流の多い側へ移動。下げると逆に動く
Plate (150〜300 V) - ドライバー段のプレート電源を設定
上げると一般に電圧ヘッドルームが広がり、下げると圧縮や非線形性が早く現れる
Source Z (0.6〜100 kΩ) - Stage 1を駆動する信号源インピーダンス
上げると入力容量との相互作用が強まり、高域やトランジェントの駆動が穏やかになることがある
Supply (0.1〜47 kΩ) - ドライバー段のB+電源抵抗
上げると電流の増加に伴う電源サグが大きくなり、下げると電源がより安定する
Negative Feedback (0〜30dB) - グローバル負帰還量を設定
Lineでは2段目のプレート応答、2種類のパワー回路では出力トランスの固定フィードバック巻線から戻す
上げると一般にオープンループ利得と歪みが減り、応答が締まる。0dBで負帰還ループが開く
SE Triodeは軽い帰還を想定しているため、3dBから始め、通常は0〜6dBの範囲で調整する
スピーカー負荷に対する電気的なダンピングはこのループそのものから生じるため、上げるほど負荷を制動する力も強くなる
Output Trim (-48〜+48dB) - 回路の後で処理音のデジタルレベルを調整。内部の駆動電圧は変わらない
Output Safety Trim (-96〜0dB) - 回路の後に働く、Output Trimとは別系統のリニアトリム。出力レベル保護が専用に使う
Auto Gain Reductionが下げるのはこのトリムだけで、Output Trimには書き込まない
スライダーと数値表示は、設定した値から現在適用されている自動低減量を引いた実効トリムを示す。保存されるのは、ユーザーが最後に自分で設定した値
スライダーをつかむと表示中の実効値がそのまま設定値になるためレベルは飛ばず、その時点で蓄積された低減が解除される
Auto Gain Reduction (既定でオン) - 出力レベル保護がOutput Safety Trimを自動で下げることを許可する
オフにすると新たな低減は蓄積されず、すでに適用された低減はそのまま残る
Wet/Dry Mix (0〜100%) - 処理音とレイテンシをそろえた原音をブレンド
0%でも、時間整合に必要な固定64 samplesの遅延は原音経路に残る
Input Reference (0.100〜300.000 Vpk) - デジタルの0dBFS peakに対応する入力端子のピーク電圧
2.828 Vpkはフルスケール正弦波の2 Vrms、5.657 Vpkは4 Vrmsに相当
値を上げるほどモデル回路を強く駆動する。普段の音量や効き具合の調整にはInput Volumeを使う
Output Circuit (Line、Push-Pull Power、SE Triode) - モデル化する回路構成を選択
Lineは2段ドライバーの後で終了し、出力管、トランス、スピーカー負荷は処理しない
Push-Pull Powerは位相反転段とパワー出力回路全体を加える
SE Triodeは直接駆動する300Bまたは2A3を1本と、ギャップ入りシングルエンド出力トランスを加える
Power Tubes (EL84 ×2、EL34 ×2、6L6GC ×2、KT88 ×2) - 出力管の電流モデルと対応する回路部品を選択。Powerモードでのみ有効
4種類のモデルはいずれもプレート、スクリーン、グリッド電圧にわたって実際の出力管データに従い、グリッドを十分に負へ振ったときの完全な遮断まで再現する
Output B+ (300〜470 V) - パワー段の電源電圧。上げると取り出せる電圧振幅と出力管の損失が増える
Cathode Resistor (270〜500 Ω / valve) - 各出力管の独立したカソードバイアス抵抗
抵抗を上げると無信号電流が減り、下げると増える
SE Triode (300B、2A3) - シングルエンドの直熱出力三極管モデルを選択。SE Triodeでのみ有効
SE B+ (250〜450 V) - シングルエンド出力段の電源電圧を設定
SE Cathode Resistor (700〜1300 Ω) - 1本の出力三極管のカソードバイアス抵抗を設定
Screen Tap (0%、20%、43%) - 出力管のスクリーン接続を選択
0%は固定スクリーン電源、20%と43%は対応する出力トランス一次側タップに接続し、分布負荷(ウルトラリニア)動作にする
タップは巻数比なので、スクリーンは一次巻線の磁束結合のうちその割合ぶんに追従する
Push-Pull Primary (6.0、6.6、8.0 kΩ) - プッシュプル出力トランスのプレート間一次インピーダンスを選択。Assumed Speaker Loadとの組み合わせで巻数比も決まる
この選択はコアの磁気飽和磁束も決める
SE Primary (2.5、3.5、5.0 kΩ) - ギャップ入りシングルエンド出力トランスの一次インピーダンスを選択。Assumed Speaker Loadとの組み合わせで巻数比も決まる
この選択は、同じ信号がギャップ入りコアにどれだけの磁束を送り込むかも決めるため、インピーダンスが高いほど同じレベルで早く飽和に達する。シングルエンド動作では無信号時の電流によってコアに一定の磁束が残るため、信号は非対称に飽和し、低域で偶数次倍音が加わる
Assumed Speaker Load (4、8、15、16 Ω) - トランス二次側のタップと、回路が想定するスピーカーの公称インピーダンスを選択
単純な抵抗ではなく、それぞれの周波数依存RLC負荷がトランス負荷と帰還に影響する
Actual Speaker Load (2〜32 Ω) - そのタップに実際につないだスピーカーのインピーダンスを設定
負荷回路網はAssumed Speaker Loadとの比でスケールされるため、共振周波数とQは保たれ、インピーダンスの水準だけが動く
巻数比はAssumed Speaker Loadのままなので、不一致のときは出力管へ反射されるインピーダンスが変わり、ダンピング、取り出せる出力、駆動状態が変化する。両者をそろえると回路は設計点で動作する
出力レベル保護
回路のパラメータを変えると、出力レベルが大きく変わる場合があります。Auto Gain Reductionがオンのときは、処理音がデジタルフルスケールを超えないようOutput Safety Trimを下げます。低減量は自動では戻らず、グラフ下のステータスに表示されます。
低減量が大きい場合は、Input VolumeまたはOutput Trimを下げてから、プリセットを選び直すかOutput Safety Trimを調整してください。
Auto Gain Reductionをオフにするのは、別の方法で出力ピークを確認している場合に限ることをおすすめします。
この保護は出力レベルだけを下げます。回路内で生じる倍音や圧縮は取り除きません。
安全バイパスと復帰
不安定な設定でバイパスが作動した場合は、Negative Feedbackを下げるかプリセットを選んでください。設定が安定すると処理音へ自動的に戻ります。
バイパス表示が消えない場合は、プリセットへ戻してエフェクトを読み込み直してください。機器上で処理を利用できない場合は、音声が変化せずそのまま通過します。
HUDの読み方
点は直近の動作位置を示します。点の広がりが大きいほど、その段が強く駆動されています。各パネルは左右両方のチャンネルを重ねて描き、青が左、オレンジが右です。
グラフ左上には、表示中の真空管の名前が表示されます。
グラフの上にあるGraphで、どの真空管を見るかを選びます。Stage 1 / Stage 2はドライバー段の2段、Push / Pullはプッシュプル出力管の2本、SE Triodeはシングルエンド出力管を表示します。選べるのは現在の回路が実際に使う段だけなので、ドライバーを備えたパワー段では両方を切り替えて見比べられます。
真空管が1本も動いていないとき、つまりDriver TypeをBypassにしたLineや、エフェクトをオフにしたときは、表示が空のままになり、ステータスにNo tube stage is activeと出ます。
Speaker OutputとSpeaker Real Powerは、パワー段とスピーカー負荷がどの程度強く駆動されているかを示します。
Transformer Fluxは、出力トランスの磁束鎖交の大きさをWb単位で示します。低域がこの値を強く押し上げるほど、トランス自体が加える歪みが増えます。SE Triodeではギャップ入りコアの定常的なバイアス磁束を含むため、無信号でも値はゼロより上にとどまります。
グラフ下のステータスには、動作中かバイパス中かと、自動的に下げられた出力レベルが表示されます。
Tube Simulatorには、サンプルレートに応じて約0.3〜1.5msの短い処理遅延があります。
ビジュアル表示
グラフにマウスを重ねるか、タッチしてなぞると、その位置のプレート電圧とプレート電流を読み取れます。プレート特性曲線が描かれている場合は、最も近い曲線のグリッド電圧も表示されます。