Group Delay PEQ
Group Delay PEQは、Group Delay EQのパラメトリック版です。15本の固定スライダーの代わりに、形状・周波数・遅延量・Qを自由に設定できる5つのバンドを備えます。有効なバンドを合成した1本の目標遅延曲線を作り、その曲線を平坦な振幅特性で実現することを目標に1本のFIRフィルターを構成します。振幅特性の平坦さは設計目標であり、常に保証されるものではありません。有限長のTapsで理想特性を近似するため、遅延量が大きい設定や非常に狭い形状では、測定可能な振幅リップルが生じることがあります。クロスオーバー、バスレフ、急峻なハイパス、共振など、補正したいタイミング誤差の形が分かっている場合に向いており、1~2バンドでその形をそのまま再現できます。
音に効くのは周波数どうしの差だけです。すべてを同じだけ遅らせても単なるディレイになるため、本エフェクトは内部の遅延量を固定し、その前後に各領域を動かす形にしています。有効なバンドがすべて0 msの間は完全に素通しで、レイテンシーも増えません。振幅特性は変わらないため効果は繊細で、音色ではなくタイミングの変化として、主にドラム、撥弦楽器、ピアノの立ち上がりなどのトランジェントで表れます。
音質調整ガイド
Filter GDで既知のフィルターをなぞる: 2次のアナログセクションの群遅延のこぶは、カットオフ周波数とQで形が決まります。この2つの値をFreqとQに入れ、測定したこぶの高さの符号を反転した値をDelayに設定すると、そのこぶを打ち消せます。密閉型サブウーファーやLR2の和は1バンド、4次のバスレフやLR4の和は1~2バンドでカバーできます。
シェルフで領域全体を揃える: ある特定の周波数付近ではなく、スペクトルの一方の側がまとめて遅れている場合は、Low ShelfまたはHigh ShelfをQ 2~4で使います。幅1オクターブ前後の段差になり、コーナー周波数の片側全体を同じ量だけ動かせます。
残りはPeakで微調整する: Peakは滑らかなベル形で、その半値幅はパラメトリックEQと同じくQに従います。単一のフィルター形状では説明できない残差のこぶに使います。
高域クロスオーバーは過度に期待しない: 3 kHzのLR4クロスオーバーの群遅延ピークは0.2 ms程度しかありません。その補正は可聴性以下であり、効果は僅かです。低域のタイミング誤差のほうがはるかに意味があります。
低域と高いQには長いフィルターが必要: Q 8程度の高いQで低域の共振を補正するには、96 kHzでは32768 tapsが必要です。2本の曲線を確認し、緑色の曲線が灰色の曲線に追従できていない場合はTapsを増やすかQを下げてください。
1バンドずつ調整する: バンドは1つずつ動かして聴き比べます。位相だけの変化は多くの音楽で繊細で、グラフを見るよりもエフェクトのオン/オフ比較のほうが多くを教えてくれます。
パラメーター
Type - バンドの遅延形状を選びます。4種類とも同じ3つの値(Freq・Delay・Q)だけで決まり、Delayは常にそのバンド単独の曲線の極値を表します。
Peak - Freqを中心とするベル形で、半値幅はQから決まる帯域幅に一致します。オーバーシュートしないため、自由な形状の補正や残差の微調整に向きます。
Low Shelf - Freqより低い側でDelay、Freqでその半分、高い側で0になる滑らかな段差です。Qは遷移の急峻さを決め、Q 1で1次オールパスの群遅延遷移と一致し、Q 2~4で帯域を限定したタイムアライメント向けの幅1オクターブ前後の実用的な段差になります。
High Shelf - Low Shelfの鏡像であり、その相補形です。同じFreqとQの2つを合成すると一定のDelayになります。
Filter GD - アナログフィルター(ハイパス/クロスオーバー/共振)1段が持つ群遅延の形をそのまま加減するタイプです。FreqとQに補正対象フィルターのfcとQを、Delayに測定した群遅延カーブの山の高さ(打ち消す場合は負値)を入れます。
Freq - バンドの周波数を20 Hz~20 kHzに設定します。18~20 kHz付近では目標が滑らかに0へ減衰するため、上限付近に置いたバンドは効果が弱まります。
Delay - そのバンド単独の曲線の極値をミリ秒で設定します。正の値はその領域を遅らせ、負の値は早めます。可動範囲はフィルターが保持できる遅延量そのもので、96 kHzでは4096 tapsで±18.6 ms、32768 tapsで±149.3 msです。Tapsやサンプリング周波数を変更すると、保存値は新しい上限にクランプされます。
Q - 形状の幅や急峻さを0.1~100の対数スライダーで設定し、すべてのTypeで使用します。実用的な範囲はタイプごとに異なり、Low Shelf/High Shelfは0.25~16、Filter GDは0.1~10です。実際の目安はシェルフがQ 2~4、Filter GDがQ 0.5~8で、0.5は1次オールパスやLR2の和、0.7071はButterworthやLR4の和、8は鋭い共振に対応します。範囲外の設定も受け付けますが、現在のTapsで実現できない場合はステータス行に表示されます。
Enabled - 5つのバンドを個別に有効/無効にします。無効なバンドは目標曲線に寄与せず、グラフ上では暗く表示されます。
Taps - FIR長を4096、8192、16384、32768から選びます。低域ほど長いフィルターが必要で、高いQの形状も同様です。Tapsはフィルターが保持できる遅延量、つまりDelayの可動範囲も決めます。増やすとレイテンシーと処理負荷も増えます。
Latency - 畳み込みエンジン先頭部の遅延を0、128、256、512、1024 samplesから選びます。小さいほど遅延は減りますが、処理負荷は上がります。
総レイテンシーはLatencyの設定値にTapsの半分を加えた値です。バンドを操作しても変わらないため、チェーン全体の遅延が変わるのはTapsまたはLatencyを変更したときだけです。
表示の見方
灰色の曲線は目標特性で、有効なバンドの形状を合成したものを対数周波数軸上に表示します。縦軸は現在の設定に合わせて自動で拡大縮小し、最小で±5 msです。
緑色の曲線は、設計されたフィルターが実際に実現している特性です。2本が重なっていれば設定どおりに実現できており、離れている場合は現在のTapsでは追従できていません。
番号付きマーカーは5つのバンドに対応します。左右へドラッグすると周波数、上下へドラッグするとDelayが変わります。マーカーが曲線上に乗るのはPeakのときだけで、シェルフはFreqでDelayの半分になり、Filter GDが極値をとる周波数はFreqより低く、Qが高いほどFreqの直下に寄り、Qが下がるほど低域側へ離れていきます。Qが約0.577以下ではグラフの低域端が極値になります。
ステータス行には総レイテンシー(samplesおよびmilliseconds)と、フィルターの振幅リップルが表示されます。リップルは実現された振幅特性が平坦という設計目標からどれだけずれているかを示し、値が小さいほど目標に近いことを意味します。0.3 dBが精度警告の基準です。
グラフにマウスを重ねるか、タッチしてなぞると、その位置の値を読み取れます。