Vinyl Simulator
Vinyl Simulatorは、音楽信号そのものを物理的なレコードのカッティングと針による再生モデルで変換します。カッティング用フィルターとRIAA録音カーブを通した信号を、表面粗さや異物を持つ溝へ書き込み、針とトーンアームの機械モデルで読み取り、RIAA再生イコライゼーションをかけます。単にレコードノイズを重ねるのではなく、溝の形状、トラッキング、盤面と音楽を相互作用させたい場合に使います。
Vinyl Artifactsとの違い
Vinyl Simulatorは入力信号をモデル化した溝と針に通して変化させます。Roughness、Dust、Static、Tracking Force、針形状、回転数、Radiusがシミュレーションに関わります。
Vinyl Artifactsは音楽信号自体を変えず、調整可能なポップ、クラックル、ヒス、ランブル、ステレオノイズのにじみを加えます。軽く予測しやすいノイズ層が欲しい場合に選びます。
両方を組み合わせることもできますが、まずは片方から始めてください。両方で盤面ノイズを強くすると、クリックやノイズが急激に増えます。
サウンドエンハンスメントガイド
穏やかなレコード再生: Cut Levelを0 dB付近、ShapeをEllipticalにし、Roughnessを中程度、DustとStaticを少なめにします。原音を多く残すならMixを下げます。
内周らしい変化: Radiusを60 mmへ近づけます。溝の線速度が下がるため、高域の細部やトラッキングが厳しくなります。Scan Radiusが小さい場合やCut Levelが高い場合は特に顕著です。
きれいで安定した再生: Roughness、Dust、Static、Scratchを下げ、Tracking Forceを2 g前後に保ち、QualityをStandardまたはHighにします。Cut Levelを下げることでも機械的な負担を減らせます。
古びた、傷んだ盤面: まずRoughnessを上げ、次にDustとStatic、少量のScratchを足します。それぞれ別の物理現象なので、同時に大きく上げると過剰になりやすくなります。
溝による変化を強調: Cut Levelを慎重に上げる、HF Cutoffを下げる、またはRadiusを小さくします。HUDでTracking S/Eの低下とmistrack/skipの増加を確認してください。
ワウ・フラッター: 本エフェクトは速度揺れ、偏芯、反り、ターンテーブルランブルを生成しません。必要な場合はエフェクトチェーンにWow Flutterを追加します。
システムプリセット
エフェクトヘッダーのエフェクトプリセットをクリックすると、溝、針、盤面の設定をまとめて適用できます。
Audiophile Pressing - 丁寧に保管された静かなレコード盤面です。
Well-Worn Favorite - 何度も再生された盤の粗さ、ほこり、静電気を増やします。
Flea Market 45 - 球形針と目立つ盤面ノイズを持つ、傷んだ45 rpmシングルです。
78 rpm Shellac - 粗く狭帯域な、古いシェラック盤の音です。
End of Side - レコード片面の終端に近い内周のトラッキング挙動です。
パラメータ
Cutting
Cut Level (-20~+20 dB) - 入力がカッターを駆動する強さです。上げると溝変位とトラッキングの非線形性が強まり、下げると機械的なヘッドルームが増えます。
HF Cutoff (6000~24000 Hz) - カッティング前の高域上限です。下げると暗く追従しやすい溝になり、上げると高域の細部を保つ代わりに針への要求が高まります。
Bass Mono Below (50~1000 Hz) - ステレオのSide成分を減らす周波数範囲を設定します。上げるほど低域が中央に寄り、左右の溝壁が逆方向へ動く低域成分を抑えます。
Side Mix (0~100%) - Bass Mono Belowより下に残すSide成分です。0%でその帯域がモノラル、100%で元のSideレベルを維持します。
Record
Speed (33⅓、45、78 rpm) - 盤の回転数です。同じRadiusなら回転数が高いほど溝の線速度が上がり、細部を追いやすくなります。
Radius (60~146 mm) - 盤上の針位置です。小さい値は線速度が低く、高域のトラッキングが難しい内周を表します。
Roughness (0.1~100 nm) - 接触モデルで使う微細な表面粗さです。上げると連続的な盤面テクスチャが増えます。
Dust (0~10000/s) - 溝に現れる埃粒子の頻度です。上げると物理的な接触と短い乱れが増えます。
Static (0~10000/s) - 静電気放電パルスの頻度です。溝の形ではなく、カートリッジ出力へ鋭いポップを加えます。
Scratch (0~1000/s) - 大きな溝欠陥の頻度です。低い値で時折の傷、高い値で意図的に傷んだ効果になります。
Stylus
Shape (Spherical / Elliptical) - 針先の接触形状を選びます。Ellipticalは細かな溝を追いやすく、Sphericalは丸く穏やかな接触になります。
Side Radius (5~25 µm) - 溝壁を横切る方向の針先半径です。接触面積と圧力分布が変わります。
Scan Radius (2~25 µm) - 溝の進行方向に使う半径です。小さいほど細かな形状を追い、大きいほど広い接触範囲で平均化します。SphericalではSide Radiusに連動します。
Tracking Force (0.5~5.0 g) - 針圧です。上げると接触が安定しやすい一方、接触力と圧力も増えます。低すぎるとmistrackやskipが増えることがあります。
Tip Mass (0.1~1.5 mg) - 針先の可動質量です。上げると慣性が増え、速い溝変化への追従が難しくなります。
Compliance (5~35 cu) - サスペンションの柔らかさです。上げると同じ力で動きやすくなり、機械的な応答が変わります。
Damping (0.05~1.0 ζ) - 機械共振の減衰です。上げるほどリンギングを強く抑え、低い値では共振的な応答が残ります。
Output
Quality (Eco / Standard / High / Ultra) - 溝を追う細かさとCPU負荷のバランスを選びます。通常のリスニングはStandardから始めます。
Output Gain (-24~+24 dB) - 再生イコライゼーションと正規化後のレベルを調整します。強いカッティングや盤面設定でピークが大きい場合は下げます。
Mix (0~100%) - シミュレーション出力とレイテンシーを合わせたドライ信号を混ぜます。0%でドライ、100%で完全なシミュレーション出力です。
HUDの読み方
Force L/R (mN)は左右の溝壁にかかる接触力です。大きい値や左右差は、厳しい溝変化または不均一な接触を示します。
Pressure (GPa)は現在の左右で大きい方の接触圧です。Tracking Forceや針先半径を調整するときにForceと併せて見ます。
Tip (cm/s、dB)は針先速度と、その結果の再生レベルです。
Tracking S/E L/R (dB)は追従した信号と追従誤差の比です。高いほどきれいに追従し、継続的な低下は針が溝を追いにくい状態を表します。
Jitter (ns)はStylus表示で確認でき、溝の読取点における時間揺らぎを示します。
Mistrack、Skip、Static Pop、Dust Hit (/s)は最近のイベント頻度です。新しいイベント時に点滅します。mistrackやskipが続く場合は、Cut Levelを下げる、Tracking Forceを適度に上げる、Radiusを大きくする、またはQualityを上げます。
HUDは再生中に値を更新し、再生停止中はアイドル状態を表示することがあります。
推奨設定
穏やかな物理再生: Cut Level 0 dB、HF Cutoff 16 kHz、33⅓ rpm、Radius 120 mm、Roughness 5 nm、Dust 0.5/s、Static 0.02/s、Scratch 0/s、Elliptical、Tracking Force 2.0 g、Quality Standard、Mix 75%
クラシックな外周再生: Cut Level 0 dB、HF Cutoff 16 kHz、33⅓ rpm、Radius 135 mm、Roughness 13.17 nm、Dust 2/s、Static 0.08/s、Elliptical、Tracking Force 2.0 g、Quality Standard、Mix 100%
内周の比較: Cut Level +3 dB、HF Cutoff 14 kHz、33⅓ rpm、Radius 60 mm、Elliptical、Scan Radius 8 µm、Tracking Force 2.0 g、Quality High、Mix 100%。大きいRadiusと切り替え、Tracking S/Eとイベント数を比較します。
摩耗した盤面: Cut Level 0 dB、33⅓ rpm、Radius 100 mm、Roughness 35 nm、Dust 25/s、Static 1/s、Scratch 0.5/s、Tracking Force 2.2 g、Quality Standard、Output Gain -3 dB、Mix 100%
QualityとCPU負荷の目安
EcoはCPU負荷が最も低く、処理能力の低い機器での第一候補です。
Standardは通常のリスニングでの推奨開始値です。
Highは溝の追従を細かくしますが、CPU負荷が大きく増えます。
Ultraは非常に高負荷で、通常のリアルタイム再生にはほとんど必要ありません。
高いサンプルレートや負荷の大きい針先設定でもCPU負荷が増えます。音切れする場合は、まずQualityを下げてください。
機器上でVinyl Simulatorを利用できない場合は、音が変化せずそのまま通過し、パネルに通知が表示されます。このエフェクトはワウ、偏芯、反り、ターンテーブルランブルを加えません。必要な場合はWow Flutterなどを組み合わせてください。